香港・華南地区視察 感想

by小口 裕司

1996.6.4


深センの香港化
私は、3年前の93年に深センを訪れている。その時に比べて街の中は かなりきれいになり、かつ整備され驚いた。 町全体が落着いた、と言った感じ。歩いている人々もほとんど香港の人々と変わりない印象だ。 むしろ、日本よりベンツ等の高級車が目立った位である。 前回は、深センから香港に戻ると「ほっ」とした気分になり、 「タイムマシンで、違う時代から、やっと戻って来れた」という感じだったが、 今回は、そんな感がしなかった。 それだけ、深センが香港に近づいたということかもしれない。
来年7月には香港が中国に返還される。これだけ深センが香港化して来たのを見ると、 「経済に関しては、香港は変わらないだろう。むしろ、中国と香港の垣根がさらに低くなるのでは」 ということが実感として感じられた。

日本の空洞化
相変わらず、日本の空洞化は進んでいると言う。 テクノセンターの石井社長によると、日本の空洞化率は6%、米国は52%、欧州は47%だそうだが、 米国は日本やその他の国からの企業進出により、それがほとんど埋まって来ているのだそうだ。 ところが、日本は、高い賃金により海外企業の進出が全くないため、 日本の空洞化はただ進んでいるだけで、埋まることは無いとのことである。 現在、日本では欧州のように、失業問題は大きく取り上げられていないが、 実際には、学生の就職難はかなり深刻なようある。この先はどうなることか、心配になる。

中国を市場としてとらえる
安い賃金によるコストダウンを目的に、海外へ進出することの他に、 中国の抱える需要の大きさに注目して、中国を市場としてとらえる必要もあると思う。
日本では高度経済成長の終焉により、大量生産から多品種小量生産の時代に移ってきた。 かつての、3Cとか言って同じ物を大量消費する時代は終り、 その後は、「誰も彼もが欲しい」といったものが無くなってしまった。 商品を個性で選び、選択して消費する時代になったわけだ。
一方、これからの中国は、大量消費が始まるの時代ではないかと思う。 日本の約10倍の人口の中国人が一斉に消費を始めたら、どうなるか? おそらく、造っても造っても足りない事が起こるだろう。 (それだけの人が一斉に事を起こすとなると、つい環境問題が気になって しまうのは豊かな日本に戻ったせいだろうか?)
深センに林立する、あの高層マンションを見ていて、かの松下幸之助の水道哲学は、 中国ならば通用するのではないかと思ってしまった。公称でも12億の人口は恐ろしい。
そうした大量消費をまかなうために、海外から買っていたのでは、 だた外貨を失い、何も中国の為にならない。 供給元はやはり中国内でなければならないと、中国政府が考えるのはごくあたりまえだ。 だから現在の経済開放政策があるのだろう。とにかく、生産出来る基盤を造らねばならない。
我々にとっても、市場としての中国は、非常に魅力的だ。 ただ、その市場に参入するには、中国国内で作るか、でないとすると、 日本で造り輸出しなければならない。 日本で造れば、当然労賃も高いし、関税もかかり、高コストとなる。 日本でしかできないものでないと、その市場には受け入れてもらえない。 果たして、10年、20年後そんなものが日本にあるのか?疑問だ。

進出現地企業の苦労
日本から進出した企業は、生産管理以外の問題、つまり中国人従業員との文化の違いに苦労してる。 M社さんは、朝1時間をかけてラジオ体操、腕立て伏せ、腹筋の体操、挨拶の訓練、清掃等を行っている。 日本の従業員のように規律正しく、また清潔ではない。 中国の田舎の娘たちには、生活から教育しなければならない。 タンを場所に関係なくそこらじゅうに吐く。立って食事をする。挨拶ができない。 自分の非を認めない。などなど・・・・
日本の我々にとっての常識が通じないという。
きちっとした品質の良い製品を造るには、きちっとした生活が必要となる。 この信念で教育する必要があるのだろう。十数年間そんなことには 関係なく生きてきた彼らにわからせるためには、とにかく相当な苦労がいると思う。
いや、きっとそんなことがわかるのは、ほとんど居ないかもしれない。 お金のために、しかたなくやっているのが、ほとんどだろう。
もし、そうでないとすれば、日本企業で働き、田舎に帰った娘達は、 とっても得をしたヤツラかもしれない。

日本の常識は世界の非常識
香港は、政治的には参加させない代わりに、経済では放任主義。 日本の規制緩和は、掛け声ばかりでいっこうに進んでいない。「一度手に入れた利害は、 そう簡単に手放す訳が無い。それは、人の嵯峨」 とばかりは言っていられないのを、海外に出るたびに思う。
それは、日本の常識が世界には通用しない事を本当に認識しなければならないことでもある。
日本の法人税率の高さ。(香港は16.5%に対して、日本は約半分が税金でとられてしまう) 高速道路料金の高さ。(香港、アメリカはタダ)
受験の為だけしか勉強しない日本の小中高校生。勉強しない大学生、勉強しなくても卒業できる大学。 (本当にいいの?)
業績に関係なく、毎年上がる給料。(どこまで耐えられる?)
高いガソリン。(セルフサービスのガソリンスタンドどうしてダメなの?)
乗り合いタクシーの規制。(車の運転できないお年寄りの買い物はどうするの?)
通信費の高さ。(香港の市内電話は基本料金のみでテレホーダイ!)
八十二銀行の支店長の話しの一例であるが、「日本は余計なことにコストを掛けすぎていないか?」 ということだ。「とくに、平等を期するために余りに細かなところに気を使いすぎなのではないか・・・」
例えば、安い市内電話の料金をカウントする設備や、それを請求し徴収する費用を掛けるくらいならば、 いっそ定額制にしてかけ放題のほうが社会全体としたら得なのでは・・・
例えば、乗合いのタクシー(あるいは巡回小型バス)24時間走らせれば、
通勤ラッシュが緩和されるばす、事故も減る、飲酒運転も減る、酒場も繁盛する・・・
特に、これからの高齢者社会では、車の運転に不安のある老人の買い物などには不可欠なのでは・・
本当は霞ヶ関で働いている人にも解っているのでしょ!?

テクノセンターの石井社長
勢力的な石井社長。そんな第一印象だ。 朝8時20分。約束の時間の10分前にホテルのロビーに降りていくと、石井社長は、 もう座って待っていた。
新宿での「香港の集い」以来である。あの時は、せいぜい20から30人くらいの 集まりだろうと思って参加させていただいたのだが、確か200人くらいの人が集まったように思う。 それだけ、日本企業の感心の高さを感じた。 実際、昨年テクノセンターを訪れた見学者は5500人を数えるという。
日本企業のための工業団地を目指すテクノセンターは、第一、第2テクノセンターが操業しており、 第三テクノセンターが今年から部分創業を開始する予定である。 リスク少なく中国へ進出できる、日本の中小企業の拠点となっている。 その代表の石井社長が、忙しいなか我々のために朝から案内をしてくださった。
石井社長は、香港に住んでいて、あさ6時の電車で、我々の滞在する深センのホテルまで 国境を越えてやってきた。 当日の入国はスムーズで、7時20分にはホテルに着いてしまったということで、 だいぶお待たせをしてしまった訳だ。
ホテルを8時30分に出発、第二国境を越えて、第一テクノセンターまで40分ほどで着いた。 思っていたより、古い建物あった。数棟の工場を借りて共同で運営しているとの事。
テクノセンターの大きな役割に情報の提供がある。この地では、まず情報のあり無しが、 大きな差となる。小さな会社ほど情報のありがたみが増すという。
日本企業のために、1992年4月にテクノセンターを開設して、丸4年が経つ。 石井社長ら役員6名は、テクノセンターからは報酬をもらっていない。 それぞれの本業は、自分の会社の経営である。 文献1によると、テクノセンターの収益金で将来は進出先の地域のために病院を開設したいという。 ぜひ応援したいと思う。(何も出来ませんが声援だけは送りたいと思います。)

深センの道路
3年前に来たときは、まさに道路も開発途上であった。ある企業を訪問しようとしたところ、 ガイドさんが言うには、「先週はここに道があったが、無くなっている。 遠回りをしないとその企業へは行けなくなった。」 なんてことがあった。しかし、今回は、深セン市内の道は見違えるほどよくなり、幹線道路は、 3車線、4車線でりっぱである。ただし、よく揺れる。車もかなりガタがきているせいもあるが、 ガイドさんの声がマイクを使っても聞き取りにくい。
日本に帰ってきて、中央道を走ったとき、平らで揺れもなく車内の静かなのに、やっぱり安心した。


yujio@root.or.jp
である。ただし、よく揺れる。車もかなりガタがきているせいもあるが、 ガイドさんの声がマイクを使っても聞き取りにくい。
日本に帰ってきて、中央道を走ったとき、平らで揺れもなく車内の静かなのに、やっぱり安心した。

yujio@root.or.jp